旅の空

ヨルダン 2012

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旧約聖書の世界 死海、ネボ山とマダバ

死海  Dead Sea

アカバを離れ、イスラエル領を左に眺めながら死海道路を北上する。2時間ほどすると死海が見えてきた。

死海 | Dead Sea

ここは海面下420メートル、世界で最も低い土地だ。死海は大地の裂け目にヨルダン川の水が流れ込んでできた塩湖で、東半分がヨルダン領、西半分がイスラエル領である。南北64キロメートル、東西10キロメートルもの広大な湖の水は、強烈な日差しによって水分は蒸発し、塩分が残される。湖水の塩分濃度は海水の約10倍、32パーセントにも達する。さらに、臭素は海水の50倍、マグネシウムは15倍もあり、新陳代謝を活発にする効果があるという。

また、死海では大気の層が他の場所より厚いために紫外線が遮られるという。酸素の濃い空気は呼吸器系疾患の治療にも効果があり、心身ともにリラックスさせる効果があるということだ。

【死海の休日】
デッド・シー・スパ・ホテル | Dead Sea Spa Hotel

デッド・シー・スパ・ホテルからの眺め。対岸はイスラエルだ。

死海 | Dead Sea

死海でスナップ写真を撮るときのお約束のポーズである。海水の約10倍もの塩分があるので、両手・両足を上げても楽に浮いていられる。逆に、浮力が強すぎて、変に力を入れてバランスを崩すとひっくり返ってしまう。背泳ぎ以外の泳ぎをしてはいけないと言われた。まともに平泳ぎなどしようものなら、頭から一回転するはずである。死海の水は目に入れば痛みで目を開けていられないほど沁みる。間違っても潜ったりしてはいけない。

湖にたまった黒い泥はミネラル豊富で美容にも効果抜群とのこと。柔らかい泥をかき集めて全身泥パックを試すと、たしかに肌がしっとりスベスベになった気がした。

湖底には塩の塊なのか小石なのかが散らばっていて、素足で歩くと足の裏が少々痛かったりする。サンダルを履いたまま水中を歩いていたら片足が泥にはまった。サンダルが錨のような役割をして泥から抜けられない。それでも力ずくで足を引き抜いたら鼻緒が切れて、代わりのサンダルを現地調達する羽目になった。

死海の夕日 | The Sunset in Dead Sea

死海の美しい夕暮れ

デッド・シー・スパ・ホテル | Dead Sea Spa Hotel

朝の死海ホテル

デッド・シー・スパ・ホテル | Dead Sea Spa Hotel

出発前に岸辺へ散策に出かけた。

デッド・シー・スパ・ホテル | Dead Sea Spa Hotel

もう一日、ここでのんびりできたらよかったが。

死海 | Dead Sea

早い時間なので人もまばらだった。

死海 | Dead Sea

鏡のような水面。時間が止まってしまったような風景だった。

ネボ山  Mt. Nebo
『申命記』第34章
次いでモーセは、モアブの砂漠平原からネボ山へ、ピスガの頂きへ上って行った。そこはエリコに面する位置にある。そしてヤハウェは彼にその全地を見せてゆかれた。すなわち、ギレアデをダンに至るまで、また、全ナフタリ、エフライムとマナセの地、そしてユダの全土を西の海に至るまで、さらにネゲブと[ヨルダン]地域、やしの木の都市であるエリコの谷あい平原をゾアルに至るまでである。
そしてヤハウェは彼にこう言われた。「これが、わたしがアブラハム、イサク、ヤコブに誓って、『あなたの胤に与える』と言ったその土地である。わたしはあなたが自分の目でそれを見るようにした。あなたはそこに渡っては行かないからである。」
その後、ヤハウェの僕モーセは、ヤハウェの指示どおり、そのモアブの地で死んだ。そして[神]は、ベト・ペオルに面するモアブの地の谷にこれを葬った。今日に至るまで彼の墓を知っている者はいない。…
ネボ山 | Mt. Nebo

標高650メートルのネボ山はモーゼ終焉の地とされる。旧約聖書の記述にあるとおり、ここはイスラエル領エリコの向いに位置する。エルサレムでさえ、ここから50キロ足らずの距離に過ぎないのだ。聖書ゆかりの地とあって、やはりクリスチャンの巡礼客が多いようだ。東南アジアから来たと思しき一団もいた。

4世紀から6世紀の間に建てられたというモーセ記念教会はちょうど修復作業中で覆いがかけられ、外観を全く見ることができなかった。

ネボ山:博物館のモザイク画 | A Mosaic in the Museum of Mt. Nebo

テントに覆われたビザンティン時代の教会跡には見事なモザイク画が残っていたが、博物館に展示されていた素朴なモザイク画の方が僕の印象に残っている。

ネボ山:博物館のモザイク画 | A Mosaic in the Museum of Mt. Nebo
【旧約聖書の世界】
ネボ山 | A View from the top of Mt. Nebo

山頂から旧約聖書の舞台となった大地を一望する。死海はすぐにわかった。この日は遠くの方が霞んでいたが、気象条件が良ければヨルダン川やエリコ、さらにはエルサレムまでも見えるはずだ。

ネボ山 | A View from the top of Mt. Nebo

エジプトを脱出して40年間荒野をさまよった後、約束の地を目前にしてモーゼが最期に目にしたという風景である。こうして同じ風景を眺めても、ユダヤ教徒やクリスチャンであれば感慨もひとしおなのだろう。

ネボ山 | A View from the top of Mt. Nebo
マダバ  Madaba

旅の最後に訪れたマダバは、7万人の人口のうち半分がキリスト教徒という町だ。旧約聖書にもモアブ王国の町「メデバ」(「果物の泉」の意)で登場する。町に入る手前の郊外をバスで走っている時、オリーブの木を数多く見た。空気は澄んで、陽光が燦々と降り注いでいる。美しい高原地帯である。

マダバの街を少し歩いた。モザイクと農業の町というだけあって、モザイク画を作る工房やそれを売る店が軒を連ねている。

それとは反対側のモスクがある通りは人や車の往来も多く、衣料品などを売る出店が車道にまではみ出していた。いかにもアラブのスークといった風情であった。

マダバ | Madaba

《 ヨルダン 2012 完 》