旅の空

詩の小径

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ソフラーブ・セペフリー 「明るさ、僕、花、水」

ソフラーブ・セペフリー  Sohrab Sepehri

ソフラーブ・セペフリーは、1928年にイラン中部のオアシス都市、カーシャーンで生まれ、1980年に亡くなった詩人です。イランでは最も人気のある現代詩人の一人だということです。

僕がセペフリーの名を知ったのは、語学の勉強がきっかけでした。使用していたテキスト(『CDエクスプレス ペルシア語』藤元優子著、白水社刊)に、セペフリーの「Va payāmī dar rāh」という詩の一節が、登場人物の会話の中で紹介されていたのです。

Rūzī khāham āmad, va payāmī khāham āvard.
いつの日か、僕は訪れるだろう、そして、知らせをもたらすだろう。

ちなみに、テキストで引用されていたのはそこまでですが、この詩はさらに次のように続きます。

Dar raghā nūr khāham rīkht.
Va sedā khāham dar dād: ey sabadhā-yetān por-e khāb! sīb āvardam, sīb-e sorkh-e khorsīd.

血管には光を注ぎ込むだろう。
そして、外に向かって叫ぶだろう:あなたのカゴにはなんと夢が満ち溢れていることか!リンゴを生らせよう、太陽の赤いリンゴを。

2009年に出版された『現代イラン詩集』(鈴木珠里他編訳、土曜美術社出版販売)では、セペフリーを始め、現代イランを代表する詩人たちの作品が多く取り上げられていますが、その中でも、原文を読んでみたいと強く思ったのが、セペフリーの「明るさ、僕、花、水」という詩です。

そんな経緯もあって、2013年、5度目となるイラン旅行の際、Shādān出版社のセペフリー全詩集をテヘランの書店で購入しました。『現代イラン詩集』を見れば、センスの良い日本語訳が読めるので、わざわざ筆者が翻訳する必要はないのかもしれませんが、セペフリーの詩が日本でもっと知られることを願い、このサイトで紹介することにしました。

ペルシア文字の原文をアルファベットで表記したのは、第一には、原語での響きを感じていただくためですが、一応、原文からきちんと訳を考えていることを強調する意図もあります。

Roushanī, man, gol, āb


Abrī nīst.

Bādī nīst.

Mī-neshīnam lab-e houz:

Gardesh-e māhīhā, roushanī, man, gol, āb.

Pākī-ye khūshe-ye zīst.


Mādaram reyhān mī-chīnad.

Nān o reyhān o panīr, āsmānī bī abr, atlasīhā'ī tar.

Rastgārī nazdīk: lā-ye golhā-ye hayāt.


Nūr dar kāse-ye mes, che navāzeshhā mī-rīzad!

Nardebān az sar-e dīvār-e boland, sobh rā rū-ye zamīn mī-ārd (※).

Posht-e labhandī penhān har chīz.

Rouzanī dārad dīvār-e zamān, ke az ān, chehre-ye man peydāst.

Chīzhā'ī hast, ke nemī-dānam.

Mī-dānam, sabze'ī rā bekonam khāham mord.

Mī-ravam bālā tā ouj, man por az bāl o param.

Rāh mī-bīnam dar zolmat, man por az fānūsam.

Man por az nūram o shen

va por az dār o derakht.

Poram az rāh, az pol, az rūd, az mouj.

Poram az sāye-ye bargī dar āb:

Che darūnam tanhāst!


※ārd…āvardの短縮形



【私訳】

明るさ、僕、花、水


曇ってはおらず

風も吹いていない

僕は池の縁に腰を下ろす

魚たちの回遊、明るさ、僕、花、水

生命の一房の清らかさ


母がバジルを摘む。

ナーンとバジルとチーズ、雲一つない空、瑞々しいペチュニア

救いは手の届くところにある:中庭の花々の間に


光は銅の鉢になんという愛撫を注ぐのだろう!

梯子は、高い壁の上から地上へ朝をもたらす

微笑みの背後にはあらゆるものが隠れている

時の壁には穴が空いていて、そこから僕の顔が見える

僕の知らないことがたくさんある

わかっている、もし緑を植えたら僕は死ぬだろう

僕は頂点へと昇ってゆく、僕には翼と羽がたくさんある

暗闇の中で僕は道を見出す、僕にはカンテラがたくさんある

僕は光と砂で満ちている

そして、木と枝葉で

僕は満ちている、道で、橋で、川で、波で

僕は水面に映る木の葉の影で満ちている

僕の心はなんと孤独なのだろう!



(参考:『現代イラン詩集』前田君江訳 土曜美術社出版販売)