旅の空

インドネシア 2015

6

バリ島編 その3

グヌン・カウィ・スバトゥ寺院  Pura Gunung Kawi Sebatu

ティルタ・ウンプルから直線距離で約4キロ北西にグヌン・カウィ・スバトゥという名前の寺院がある。名前は似ているが、グヌン・カウィ寺院とのつながりは特になく、単にスバトゥ寺院とも呼ばれる。

グヌン・カウィ・スバトゥ寺院 | Pura Gunung Kawi Sebatu

スバトゥ寺院は、木立に埋もれるようにして小さな谷間にひっそりと佇んでいる。聖なる水の寺院という点では同じだが、参拝客や観光客が絶えない豪壮なティルタ・ウンプルとは対照的である。

グヌン・カウィ・スバトゥ寺院 | Pura Gunung Kawi Sebatu

境内には、苔むした小さな沐浴場の前で腰かけて休む欧米人のカップルが一組いるだけだった。

グヌン・カウィ・スバトゥ寺院 | Pura Gunung Kawi Sebatu

石造りの吐水口から流れ落ちる水音だけが聞こえる。ティルタ・ウンプルとは違う鄙びた風情がある。

グヌン・カウィ・スバトゥ寺院 | Pura Gunung Kawi Sebatu

寺院の周囲は切り立った山肌が迫っている。境内の奥まったところにある泉を目にして思わず息をのんだ。

グヌン・カウィ・スバトゥ寺院 | Pura Gunung Kawi Sebatu

山裾から湧き出した泉の中には小さな祠が建っている。背後の崖はシダなどの鬱蒼とした緑で覆われ、別世界に足を踏み入れたようだ。澄み切った水は白い砂底と周囲の緑を映していた。

いつまでもいたくなるような心安らぐ空間が広がっている。

グヌン・カウィ・スバトゥ寺院 | Pura Gunung Kawi Sebatu

後で知ったことだが、この泉こそ、かつて飲み水に困った村人のためにヴィシュヌ神が施したと伝えられ、寺院建立の縁起ともなっている湧き水だった。

テガララン棚田  Tegallalang Rice Terraces

この日の昼食は、ジャティルウィと並んで有名な棚田のあるテガラランでとることに決めていた。テガラランはスバトゥ寺院から南へ約6キロのところにある。

テガララン棚田 | Tegallalang Rice Terraces

レストランは棚田の向かい側斜面という絶好のビュー・ポイントにある。柱と屋根がある他は吹き抜けの席にサンダルを脱いで上がり、棚田の方を向いて座る。

テガララン棚田 | Tegallalang Rice Terraces

しばらくすると、リンディックという竹製の木琴のような民族楽器の演奏が始まった。食事が終わった後もしばしリンディックの軽快な音色に耳を傾け、棚田とそよ風に揺れる椰子の木を眺めていた。半日ぐらいここにいてもいいと思った。田んぼに稲が育つ雨季はなおのこと素晴らしい景色が見られるに違いない。

グヌン・ルバ寺院  Pura Gunung Lebah

王宮から1キロほど西、チャンプアン渓谷の2つの川が合流する地点にウブドで最も由緒正しいグヌン・ルバ寺院が建っている。

グヌン・ルバ寺院 | Pura Gunung Lebah

8世紀にジャワ島から渡って来たヒンズー教の高僧が、この場所に強い霊力を感じたことがきっかけで寺院を建立したという。そして、渓谷一帯が薬草の宝庫であったことから、この地を薬草という意味の「ウバド」と呼ぶようになり、それが転じてウブドの地名となった。ここはウブドの発祥地なのだ。

グヌン・ルバ寺院 | Pura Gunung Lebah

そんな由緒正しき寺院ではあるが、訪れる人は少なく閑散としていた。その上、近年、全面的な改築を行ったらしく、ウブド随一の古刹という割には新しい建物や彫刻ばかりであった。

グヌン・ルバ寺院 | Pura Gunung Lebah
ウブドの市場にて  Pasar Ubud

夕方、ウブドの市場を歩いていたら、ガムランの音色が近づいて来た。見ると、森の聖獣バロンの面を被った少年たちが、ガムランの小さな音楽隊を従え、通りを練り歩いている。今日は祭りなのだろうか。

バロン | Barong

バロンは、小さな子供たちにちょっかいを出したり、店に入って行ってはお捻りをもらったり。まさに日本の獅子舞のようではないか。

虎 | Tiger
ウブドの夜

この日の夕食は持ち帰りにした。コテージの四方吹き抜けの居間(バレ・ブゴン)で食べる。

メニューは、アヒル肉の素揚げと付け合わせとライスにまるごとココナッツの実のジュース。ココナッツの果汁は意外に甘みが少なかった。

食事が済んだら、居間の快適なクッションにもたれて、本を読んだり、ボーっとしたりしながら過ごす。雨季ほど蚊は多くないようだが、念のため、虫よけスプレーを体中にかけておいた。

居間を煌々と照らす明りもコテージの外の暗闇までは届かない。

夜の花

2時間も経っただろうか。読書に飽きるともう他にすることがなくなってしまう。旅行中だというのに、結局、普段の生活より早く床につくことになる。

エアコンを入れるかどうか少し迷った。居間で寝そべっている間、外気が心地良かったから。

バリ伝統家屋の壁は籠目状に編んだ竹でできている。工芸品としては見事なものだが、蚊が充分に入ってこられる大きさの隙間が所々に空いている。窓を閉め切ったところで蚊の侵入は防げないのだ。

部屋には蚊取りマットもあるし、何より蚊帳がある。いっそのこと、網戸のない窓を全て開け放って寝ることにした。

どこからか、ガムランの音色がかすかに夜闇を伝って来る。夕方に市場で見た少年たちが練習でもしているのだろうか。でも、それにしては時間が遅すぎるようだ。

コテージ脇の小さな池には蛙が潜んでいたらしく、時折、思い出したように鳴き始める。

ウブドの夜は静かに更けゆく。