旅の空

イランの旅 2004

テヘラン ~ 帰国

テヘランの朝  Tehran

テヘランテヘランの街角ラーレ公園
朝7時、ホテル前の道路から聞こえてくるクラクションで目が覚めた。イランの朝は早い。道路は、通勤の車で混み始めていた。子供の手を引いたチャドル姿の女性たちが通りを歩いていく。
ホテルの近くにラーレ公園がある。朝食後、散歩に行った。木立の多い、静かな公園である。
サッカーの試合をする子供たち、バレーボールをしている少年たち、バドミントンを楽しむ少女2人、木陰で何やら話し込んでいる大人たち…、夏休みの平和な光景があった。しかし、この美しい公園も夜になると麻薬の売人が出没するという。公園で見かけたイランのカラスは、黒と灰色のツートンカラーだ。
道路は至る所で渋滞している。同様にホテル周辺を散歩していたツアーメンバーのSさんは、たった30分間で接触2件、衝突2件の交通事故を目撃したという。
ラーレ公園Park-e Laleラーレ公園

考古学博物館  Muze-ye Bastan-e Iran

イスラム以前の遺物を数多く収蔵する博物館である。建物はササン朝の宮殿建築風にデザインされている。
写真を撮ろうとしていた人が、警備の兵士に注意された。どうやら建物の撮影はNGらしい。人によって言うことが違う、とアミールさんが日本語で不満をもらした。しかし、内部の展示品は撮影可能だった。
この博物館には、ペルセポリスなどのレプリカを売る素晴らしいミュージアムショップがある。非常に出来が良い割に安い。国立の博物館で米ドルが使えるのにも驚いた。
品定めしていたら、11時45分頃、売店の女性従業員たちがそわそわと動き出した。一斉に昼休みに入ってしまうのではないかとツアーメンバーの一人が気付いた。アミールさんに確認してもらうと、果たしてそのとおりだった。このころには全員が売店付近に集まっていて、全員で買い物が終わるまで待ってくれるよう頼んだところ、彼女らは嫌な顔もせずに承諾してくれた。危うく、買い損ねるところだった。それにしても、そんな半端な時間から昼休みとは、意表を突かれる。
買い物風景も面白かった。指差したものと違う商品が出てきたり、在庫があると言っていたものがなかったり、ないと言っていたものがあったりした。
気に入った大物のレプリカが2つ、どうしても一つを選びきれずに、結局、両方買ってしまった。手荷物が多くなりすぎて、ツアーメンバーの方々に機内持ち込みを引き受けていただいたりと、迷惑をかけてしまった。
イラン考古学博物館Muze-ye Bastan-e Iranイラン考古学博物館

テヘラン寸描

テヘランの街並みは見ていて面白い。高いビルの壁面には、プロパガンダ的な絵がでかでかと描いてあったりする。最高指導者を称えるもの、星が銃や爆弾の形になった星条旗に「Down with the U.S.A」とアメリカを非難するメッセージなど。しかし、一方で、ディズニーのキャラクター柄の服を着ている子供がいたり、ハリウッド映画の海賊版ビデオを売る店があったりする。何より、この国で最も融通が利く外貨は、敵国通貨たるUSドルなのだ。
通りには様々な店や商品が並んでいて、通行人も多い。街角に機関銃を持った兵士がいたりするが、一応立っているという感じで、緊迫感はない。
テヘランは、女性たちが被りものをしているのを除けば、街の外観からはイスラム色がほとんど感じられないのだ。その女性たちも、全身を黒いチャドルで覆っている人がいるかと思えば、前髪を堂々と出したり、体の線がはっきり出ていたり、首まわりや素足を露出したりと、ルール違反の服装をしている人も少なくなかった。

宝石博物館  Muze-ye Javaherat

前王室が所有していた宝石類を展示する博物館である。その途方もない量と大きさと質にめまいがするほどだ。この博物館は、内部の写真撮影はおろか、荷物を持って入ることもできなかった。セキュリティシステムも、ガラスやショーケースにちょっと手が触れただけで大音量の警報が鳴るほど神経質だった。ちなみに、この博物館の外でも兵士が警備していたが、建物の外観は写真撮影可能だった。

サアダーバード宮殿  Kakh-e Sa'dabad

サアダーバード宮殿Kakh-e Sa'dabadサアダーバード宮殿
1979年のイスラム革命までパフレヴィー王家の夏の離宮であった建物が、テヘラン北部にいくつかある。市の北部はアルボルズ山脈の山裾にあたり、高台になっていて、昔も今もテヘランの一等地である。瀟洒な高級住宅が建ち並び、別世界のようだ。
宮殿の中は、ヨーロッパ各国から買い求めた高級家具・調度品が目白押しである。きれいに手入れされた庭の芝生やスズカケの木立の色鮮やかだった。
Kakh-e Sa'dabadサアダーバード宮殿

緑の宮殿  Kakh-e Sabz

こちらも前王家の離宮である。大理石などの高級石材がふんだんに使われている。木立の間からアルボルズの山肌が間近に見えた。木々の緑と遠くの荒々しい禿山とが対照的だった。
空港へ向かう時間になった。バスの座席について出発を待っていたとき、宮殿の見学に来た女子中学生ぐらいの団体がバスの横を通りがかり、我々に手を振ってくれた。
緑の宮殿緑の宮殿からアルボルズ山を望むアルボルズの山肌

旅の終わり

空港へ向かうバスの中、離れがたい思いでテヘランの平和な街並みやアルボルズの山並みを眺めた。
ガイドのアミールさんと添乗員Tさんがお別れの挨拶をした。聞いていると、この7日間の旅の印象が走馬灯のように頭の中を巡る。思いがけず涙がこぼれてしまった。他のメンバーに見られないよう素早く拭う。二人の挨拶が終わると、たった10人だけとは思えない盛大な拍手が沸き起こった。
20:10発のイラン航空800便は、ほぼ定刻にメヘラバード空港を離陸した。

《 イラン2004 完 》