追憶のイエメン
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ハドラマウト編3:サユーン
2018年4月末現在、イエメンは内戦状態にあり、全土に退避勧告が発出されています。
朝のアルハウタ・パレス Al-Hawta Palace
の朝も早起きしてアルハウタ・パレスの庭を散策する。


沙漠の中にあって緑あふれるこの庭は鳥たちにとっての楽園でもあったのだ。この辺り一帯の鳥が全てここに集まったのではないかと思うほど、庭のあちこちから様々なさえずりが響いていた。


朝食会場のレストランにはまだ誰も来ていなかった。カマリア窓と呼ばれるステンドグラスを通った朝の太陽が白いテーブルクロスに青と黄と緑の光を落としていた。
日干しレンガ工場 Adobe Factory
サユーンにある日干しレンガの工場を見学した。低い塀で仕切られた広い露天の作業場一面に日干しレンガが並ぶ様はなかなか壮観である。

サユーンやシバームを始めとするハドラマウト地方の家屋は全て日干しレンガで造られる。土に水とワラを練り合わせて型に入れ、表と裏の面をそれぞれ1日ずつ干せば完成する。値段は1枚あたり10リヤル(6円)ほど、大きめの家を建てるには300万円ほどかかるのだという。

照りつける太陽の下で黙々と働く作業員たちの顔や手足は真っ黒に日焼けしていた。笑顔になると、白い歯だけが浮かんで見える。
サユーンのスーク Suq of Say'un
その後、サユーンのスークで自由時間となった。少し前に書いたが、ハドラマウト地方では養蜂が盛んに行われており、サユーンにも蜂蜜を売る店が並んでいる。この後、サナアで買うことになるのだが、イエメンの蜂蜜は中近東で定評のある(?)イラン産に勝るとも劣らない濃厚な味であった。

サユーンのスークには、瓜などの果物や、トマト、キュウリ、人参、キャベツ、ジャガイモ、茄子、カボチャ、空豆といった野菜などが所狭しと並んでいる。アーケード式のバザールと違い、陽が当たって明るい露天の市場は色彩も溢れんばかりだった。

ワディ・ハドラマウトの地表に水の流れは見当たらないが、このワジは見かけによらず豊かなのだ。
ハドラマウト地方の特産であるという岩塩を一袋買ってみた。

前日に王宮から見て気になっていた白と水色のドームを持つモスクへ行ってみた。頂点が尖った放物線を描くドームはこの地方独特の形ではないだろうか。

白い方のドームの周囲は墓地だった。

サユーンの丘 At a Hill of Say'un
サユーンを起つ前に、街を見渡す高台へ上った。昨日訪ねた王宮が今度ははるか向こうに見える。ここから眺めるサユーンの街がまた素晴らしかった。

そして、ちょうど丘に上った時、アザーンが始まったのだ。このとき耳にしたアザーンは、僕が今までイスラム圏で聞いた中で最も美しいものであった。なぜ、こんな胸を抉るような哀調を帯びるのだろう。カメラの動画で音を撮ることを思いつくまで、しばらく聞きほれていた。盆地になった街は音がとてもよく響いた。
サナアへ To Sana'a
昼食後、サユーンでの日程を終え、サナアへ戻ることになった。サナアからハドラマウトに来た3日前はアラビア海沿いのムカッラ郊外の空港を利用したが、帰りはこの5月に再開されたばかりのサユーンの空港を利用する。


サユーンの運転手たちとは空港でお別れだ。3日間一緒だったから、とても愉快な面々だったから、そしてハドラマウトのドライブが予想以上に楽しかったから、彼らとの別れはちょっとしんみりとした気分になった。
イエメン航空513便は午後2時半の搭乗開始時刻が20分ほど遅れた。


帰りのフライトでも、砂漠地帯から山岳地帯へと変わっていく雄大な眺めを楽しんだ。
サナア Sana'a
サナアには午後4時過ぎに着いた。ハドラマウト地方に比べると空気がひんやりと涼しい。
2回目のサナアは初めて見た時とは印象がまるで違った。思えば、サナアの街に初めて降り立った数日前、僕はとんでもない所に来てしまったとショックを受けたのだった。イエメンを旅行先に選んだことを後悔さえしていた。
それが今ではすっかりイエメンに魅せられている。


宿泊は初日と同じタージ・シバ・ホテルである。夕食までに少し時間があったので、同行のOさん、Kさんとともにイエメン門まで散策した。途中、街角で爆発のような音がしてびっくりさせられた。梯子に上って電気の配線を修理していた男が派手にスパークを起こしたのだ。


スークで干しブドウを買ってホテルに帰った。