旅の空

イランの旅 2007

タブリーズ、サルエイン

ビザ延長手続き その1 ~ タブリーズ警察署にて

ホテルの庭の噴水イルカ今日はイランに入国して8日目、ビザの滞在期限があと2日で切れる。ずっと気にかかっていたビザの延長手続きを、ここタブリーズで済ませることにした。
タブリーズのビザオフィスは警察署の中にある。イランで役所や警察に行くというのは、考えようによっては、めったにできない貴重な体験なのかもしれないが、できれば遠慮したいところだ。どうせ10日のビザをくれるなら14日間くれてもよかったのにと、また恨めしい気持ちがわいてきた。ガイドが横についているとはいえ緊張する。
ビザの担当官は2階にいた。係官は、差し出したパスポートを見るなり、ビザのタイプが「A」(商用)から「B」(観光)に上書き修正されていること、ビザに記入したパスポート番号が砂消しで書き直されていることを問題視した。もう一つ、何かが違っているとも。入国審査のときには何も言われなかったのだが…。東京のイラン大使館に確認をとってからでないとビザの延長は罷りならぬと申し渡される。ビザを受け取ったときの悪い予感はここで見事に的中したのである。タブリーズにあるイラン外務省東・西アーザルバーイジャーン(アゼルバイジャン)州事務所に行って書類を発行してもらった後、それ以外の必要書類も一式揃えた上で出直すべしとの由。思いもよらない展開になった。

ビザ延長手続き その2 ~ 銀行にて

警察署を一旦出て、最寄りの銀行で、ビザ延長申請手数料を払い込む。手数料払込証もビザ延長手続きに必要である。その銀行は、一見、空き部屋か引っ越し前かと思うほど物がなく、殺風景だった。
窓口は一つ。次から次へとやってくるお客に一人の行員がかかり切りで対応している。その横で、女性職員が二人、メロンを切って食べていた。

時間つぶし

イラン外務省の事務所へは午前11時の指定である。それまでには時間があるので、またタブリーズのバザールへ行き、とうとう壁掛け用の絵画絨毯を買ってしまった。
その後、マスジェデ・キャブードにも行って、この前は見ることのできなかった内部を見た。しかし、ビザのことが気になって、あまり観光気分ではない。
タブリーズの観賞用絨毯Tabriz:Carpet Bazarマスジェデ・キャブード

ビザ延長手続き その3 ~ イラン外務省の州事務所にて

イラン外務省東・西アーザルバーイジャーン州事務所は、先日行ったイールゴリー公園の近くであった。
白くて高い塀を周囲に廻らせた事務的な建物だ。ところが、入口の扉は閉まっており、守衛所にも人の気配がなく、インターホンを押しても何の応答もない。
目の前が暗くなった。ビザの延長ができない。旅行を切り上げて帰国するしかないのか。万事休す…と思いきや、塀の反対側にもう一つ似たような入口があるではないか。付近に表示なり案内は一切なかった。
今度は、親切な女性職員が取り次いでくれた。控室のベンチに座って待つ。見たところ、事務所には、その女性職員と奥の部屋にいる責任者らしき男性と二人しかいないようだった。その男性が電話で談笑する声が壁を通して聞こえてくる。しばらく経って、封書の手紙のような書類を渡された。これでビザの延長ができる。希望がわいてきた。
イラン外務省は国内に事務所を置いて一体、何をしているのだろうと疑問に思ったが、おそらく、こういったビザ関係の事務をしているのだろう。

ビザ延長手続き その4 ~ 再びタブリーズ警察署

タブリーズ警察署に戻って、改めて先ほどの担当官氏に必要書類一式を提出した。ビザの横にスタンプを押し、何か記入している。どうやら、延長を認めてくれるらしい。
レザーさんの通訳を介してであるが、係官氏は次のようなことをのたまった。
「希望すればビザ延長が認められるわけじゃない。申請者の顔や服装で判断することだってあるんだ。顔を見ればどんな人間か、どんな目的で来たか大体わかるからな。延長を認めなかった連中など今までにいくらでもいるぞ。帰国便が決まっている?それは関係ない(!)」
ひたすら低姿勢に徹した。何としてでもビザ延長を認めてもらわなければならないのだ。顔色で申請を却下されてはかなわない。
係官氏は、「私がサインした以上、もう元のビザは関係ない。この延長ビザだけであなたはイランに滞在できる。」とさらに勿体をつけた上で、こちらの申請より1日多い日数の延長を認めてくれた。最後に、「ファイル代」として12,500リアルを支払って手続きは完了した。係官氏にお礼を言って早々に退出する。
タブリーズ警察署の2階から階段を下りる足取りはこの上なく軽やかだった。この国がイスラム国家でなければ祝杯でも挙げていたところだ。
警察署を出たのはちょうど昼時であった。近くのモスクから、大音量のアザーンが聞こえてきた。

サルエインへ

晴れて旅の再開である。昼食後、タブリーズを出発し、サルエインへ向かう。
タブリーズを出るときに晴天だった空は、いつの間にか、一面、雲に覆われていて、サラーブという町の手前で、とうとう雨が降り出した。一時は車のワイパーを動かすほどの強めの雨になった。イランで経験する初めての雨だ。夏のイランで雨に降られることなどないだろうと思っていた。違う気候帯に入ったのかもしれない。

サルエイン 1  Sar'eyn

幹線道路を外れて緩やかな長い上り坂を進む。サバラーン山の麓に広がる高原台地の真っただ中に、一大レジャーランドの如く出現するのがイランを代表する温泉保養地、サルエインである。
急ごしらえで造られた町という感が強い。人気の観光地だけあって、大通りに沿って様々な店が立ち並び、人と車があふれている。まるで、異世界に迷い込んだかのようだ。歩道や中央分離帯にはテントがずらりと並んでいて唖然とさせられる。観光客の数に比べて、宿泊施設が圧倒的に不足しているのだ。歩道に「テント禁止」などという標識が立っている町がここ以外に果たしてあるのだろうか。
高台に建つアパートメントタイプのホテルにチェックインして、早速、温泉に出かけることにした。

サルエイン 2 ~ イランで温泉  Sar'eyn

サルエインで最も大きい公衆浴場に行った。5時半過ぎにはすでに行列ができていたが、我々が並び始めてから行列は長くなる一方だった。入場するまでに1時間近くも待っただろうか。
入口で履物を預けて、ロッカーのカギをもらう。中は、温泉施設というよりは巨大なプールであった。水着着用、当然、男女別である。湯は土色に濁っていて、鉄の匂いがする。温度はかなりぬるめであった。大浴場のほかにも1人用やジャグジーなどもある。日本でも長いこと温泉に行っていなかったので、久々の温泉はうれしい。イランに来てから、ホテルではほとんどシャワーだけで済ませている。湯につかるとたちまち疲れがとれてゆく気がした。
プール自体は非常に大きいが、人が一杯で泳ぐ隙間はない。にもかかわらず、子供はおろか、いい大人までもがところかまわず飛び込みをするので、絶えずどこからか水しぶきが飛んでくるのだ。ちなみに、浴場内には「飛び込み禁止」という注意書きが貼ってあるのだが。
ゆったりと湯に浸かりながら、居合わせた人たちと話をした。ラシュトから来たという英語教師は、毎年、夏に2人の息子を連れてここにやって来るという。20歳の長男は電子工学の技術者をしていて、シーラーズにまだ行ったことがないという。
途中、天井から雨音が聞こえてきた。にわか雨が降ったようだ。

サルエイン 3  Sar'eyn

湯から上がって、夕食は近くのレストランでアーブ・グーシュトを食べた。
帰りがてら、通りの店を冷やかして歩く。ありとあらゆる種類の店が星の数ほどもある。
サルエインは蜂蜜の産地としても有名なのだが、それにしても蜂蜜店の多さは異様だ。真偽のほどは定かでないが、シーズン中、1日に3千人が500kgの蜂蜜を消費するとか。
サルエインSar'eynサルエイン:蜂蜜
温泉地だけあって、店頭に水着や浮輪や派手なバスタオルをこれでもかというくらいにつるしている店が多い。
『地球の歩き方』にも載っているガーヴミーシュ・ゴリーという温泉をのぞいてみる。夜になってますます大盛況といった様子だ。
Sar'eynサルエインSar'eyn
路上キャンプ組は、テントのみならず、ガスコンロや大鍋まで道端に並べて堂々と煮炊きをしていた。
標高が高いので、空気がひんやりとしている。
サルエインガーヴミーシュ・ゴリーSar'eyn