旅の空

イランの旅 2007

13

ラームサル ~ アルボルズ越え

出発の朝

とうとうテヘランへ戻る日を迎えてしまった。
カスピ海地方に来て以来、ずっと厚い雲がかかっていた空にも今日は晴れ間が見える。
ラームサルRamsarラームサル

バザール

ラームサルを離れる前に、バザールを見に行った。週に一度の定期市は、周辺の田舎からやってくる大勢の人で賑わう。市場は、とれたての野菜や果物から、乳製品や漬物などの加工食品、羊、鶏、鴨のような生きた動物まで、色とりどりの食材が所狭しと並んでいた。
市場の片隅で身を寄せ合う羊たちBazar-e Ramsarラームサルの定期市
The market day at Ramsar両足を縛られた哀れな鴨と鶏たち漬物?
通路も野菜でぎっしりみずみずしい果物に当る朝の光

アルボルズ越え ~1

一路、テヘランへ。カスピ海沿いに続く道路をアッバース・アーバードで右に折れて山道へ入り、さらに、ケラールダシュトを通ってテヘラン近郊の町、キャラジへと続く59号線に乗る。
アッバース・アーバードから先は、曲がりくねった山道を上る。山々は深々とした緑に覆われ、しかも、生い茂る木がだんだん大きくなってゆく。信州の山道を走っているようだ。
途中、森の中のチャイハネで一服する。湿り気のあるひんやりとした空気の中、湯が沸くのを待つ。頭上には梢が広がり、方々から鳥のさえずりが聞こえてくる。

アルボルズ越え ~2

そこから先は、景観が目まぐるしく変わるドラマチックなドライブとなった。高度を上げるにつれ、空は再び雲に覆われていった。
森林地帯を抜けると、だんだん、荒々しい岩肌が目につくようになる。途中のドライブインで昼食をとった。曇っていたせいもあるが、標高が高いため、半袖では寒い。近くを水量豊かな川が流れていた。
アルボルズ越えAlborzアルボルズ越え

アルボルズ越え ~3

山道を一旦上り切り、高原地帯に出た。豪華な別荘群とそれらを相手に商売する店が立ち並ぶ。表通りは避暑に訪れた人々で賑わっている。街全体が妙に新しくて違和感を覚える。

アルボルズ越え ~4

しばらく進むと、巨大な岩山の間を縫うような道へと風景は一変した。
とてつもない大きさの岩盤が想像を超える大きな力で押し上げられ、捻じ曲げられた痕跡が至るところに見える。一大スペクタクルともいえる景色に圧倒された。
峠にさしかかった。山そのものが巨大な一つの岩なのだ。低く垂れこめた雲からぽつりぽつりと雨が落ちてきた。 アルボルズ越え:峠の風景Alborz Passアルボルズ越え:峠付近

アルボルズ越え ~5

峠を越えると、またしても風景が一変する。見渡せば、周囲の山肌には、まるで苔が覆ったような、申し訳程度の緑があるばかり。峠を越えるまでずっと目にしてきた鬱蒼たる木々は、もはやどこにも見当たらなかった。カスピ海から風に乗って運ばれる水分は、もうこの山を越えられないのだ。
3日前にアルダビールからカスピ海へ下ったときとは正反対の風景を目の当たりにしていた。この風景の激変は受け入れ難い気がした。それは、何か喪失感に近いものだった。イランではむしろ、これが見慣れた普通の光景なのに。そして、むしろ、その乾いた風景に惹かれてやって来たはずなのに。
しばらく滞在するうちにカスピ海地方の風景に馴染んでしまったらしい。人は、緑がたくさんある方が本能的に安心するのかもしれない。そんなことを思った。
アルボルズ越えAlborzアルボルズ越え

アルボルズ越え ~6

禿山が連なる風景の中、テヘランを目指して進む。禿山といっても、山間を小さな川が流れていて、その川の流域にだけ緑やごく小さな集落がある。
下るにつれ、川の流れは大きく、速くなっていった。水遊びをしている家族連れがたくさんいる。川のほとりにあるチャイハネで休憩した。
さらに先を進むと、荒野に突然大きな町が現れた。キャラジは、まるで、テヘランを一部、移植したような町だ。
アルボルズAlborzカラジ川沿いのチャイハネ

再びテヘラン

この日の夕食は、レザーさんの家で御馳走になった。父親の久々の帰りに子供たちはみな嬉しそうだった。宿泊はホウェイゼ・ホテル、非常に快適で良いホテルだった。
イランでの宿泊も今日が最後となった。明日、帰国するという実感が湧かない。いつの間に2週間が過ぎてしまったのだろう。