旅の空

イランの旅 2007

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テヘラン

テヘランは今日も晴れ

目が覚めると、すぐさまベッドから起き上がり、窓のカーテンを開けた。ここから眺める限り、周囲の道路には渋滞もなければ、そもそも車があまり走っていない。3年前と違って、クラクションで目が覚めることもなかった。テヘランの道路を走る車の数が3年前に比べて減ってしまったような気がずっとしていたのだが、それが本当なのか、あるいは、ここがもともと交通量の少ない区域なのかはわからない。
林立するコンクリートのビルの向こうに、アルボルズの乾いた山肌が見える。
テヘランTehranテヘラン

テヘランの朝

ホテルの前は、大通りが交差して4方向に伸びている。気が向いた方向に歩を進めてみた。通りには開店前の店がたくさん並んでいる。特に目を引くものもないが、穏やかな朝の風景があった。
テヘランの街角にてテヘランの街角にてTehran
テヘランには壁一面に大きく絵を描いたビルがたくさんあって、それを見て回るのも面白い。その一つを写真に撮ろうとカメラを構えていたら、たまたまバイクで通りかかった警官が、「ムッシュー」と、僕に向かって何やら渋い表情で首を横に振っている。理由がさっぱりわからなかったが、どうやら写真撮影がいけないらしい。
そのビルの前を通り過ぎて、注意された理由がわかった。あれは「工業省」の建物だったのだ。イランでは政府庁舎、駅、空港などの公共建造物や警察官などの写真撮影は御法度である。壁の絵が面白いからといって、迂闊に写真を撮ったりできないと感じた。
しばらく歩くと、高い塀に囲まれた区域に出た。塀に囲まれた広大な敷地にはヨーロッパ風の建物が建っていて、塀にはアメリカを非難するスローガンや絵が描いてある。思いがけず、あの有名な「旧アメリカ大使館」に来てしまった。塀に大きく浮き彫りされたワシの紋章は、ボロボロに痛めつけられて無残な姿をさらしていたが、外から見る限り、建物は意外にきれいな状態で、その気になれば、またすぐに使えるようになるのではないかと思った。

公園の街、テヘラン

道中、ずっと異音がしていたレザーさんの年代物ベンツだが、今日は使わないという。テヘランに帰ってきて、車を即、修理工場に持ち込んだところ、シャフトがいつ壊れてもおかしくない状態で、修理屋も唖然としていたという。修理代に350ドルかかると言って、しょげた顔をしていた。
かわりに今日はタクシーを1台チャーターした。運転手はアリレザーさん、レザーさんが日本で働いていたときの知り合いらしく、日本語が話せた。ダッシュボードに横浜の写真のテレホンカードが貼ってあった。
テヘランには、市内の至るところに大小様々な公園がある。通りがかりの、名前も知らない公園にちょっと寄ってみた。小さいが、緑の多い美しい公園だ。日差しが強いせいか、木々の緑が非常に瑞々しく感じる。どの公園に行っても、大抵、丹念に水やりをする庭師に出会う。
朝から日陰でのんびり休んでいる男たちがいた。仕事はいいのだろうか。
テヘランの公園Park-e Tehran公園にて:テヘラン

アーブギーネ博物館  Muze-ye Abgine

紀元前以降の素晴らしいガラス器や陶器を収蔵する博物館である。展示品の数は非常に多く、しかも、目を見張るものばかりだった。
アーブギーネ博物館Muze-ye Abgineアーブギーネ博物館
ここに展示された陶器やガラス器は、ほとんどが何百年以上も前に作られたものだが、どれも、現代にも通じるようなデザインで、製作者の素晴らしい造形センスが伝わってくる。色も表面の質感も多種多様で、これらがとても大昔に作られたものとは思えなかった。展示の仕方も非常にハイセンスだと思う。
Muze-ye Abgineアーブギーネ博物館Muze-ye Abgine
気付いたら1時間半ほど経っていたが、もし、殊にガラスや陶器に興味があって、一つ一つの展示品をじっくり見るならば、たっぷり一日かかるのではないか。博物館の建物自体も由緒正しきもので、庭も美しく、売店も充実、という具合に、満足感の高い博物館であった。
アーブギーネ博物館Muze-ye Abgineアーブギーネ博物館

テヘランのバザール  Bazar-e Tehran

テヘランのバザールにも前から行ってみたいと思っていた。雰囲気では、タブリーズエスファハーンに及ばないが、混み具合では、やはり、テヘランが一番と思われた。人が多すぎて、思うように歩けない。
テヘランのバザールTehranテヘラン
バザールの近くにあったモスクを見学した後に引き返す。途中、「カメラを盗まれないよう注意して」と忠告してくれた親切な人がいた。そんな心配は全く必要なさそうに思えたのだが。
Tehranテヘラン

旅の終わりに

全ての観光が終わった。もう午後2時に近かった。最後の昼食は、レザーさんの家で、運転手のアリレザーさんと一緒に御馳走になる。ゆったり食事を済ませた後に、いよいよ帰り支度を始める。
3時半頃、レザーさんの奥さんや子供たちにさよならを言って、メヘラバード空港へ向かう。特に道路の混雑もなく、感慨にふける間もなく着いてしまった。
空港のセキュリティチェックの列に並ぶと、もうゆっくり話をする時間はなく、ここまで送ってくれた2人と握手して、挨拶を交わし、あっさりと別れた。
チェックインカウンターには長蛇の列ができていて、順番が回ってくるまでに1時間近くかかった気がする。タブリーズで買った絵画絨毯は、機内持ち込みが認められなかった。壊れたりしないかちょっと心配だ。
出国審査も長蛇の列ができていた。隣り合わせた在日イラン人の男性が、「また並ばなきゃいけないんだよ。いやだね~」と日本語でつぶやいた。
出国審査の係官の女性が、僕のパスポートに押された延長ビザまでしっかりと見ている。もう問題はないはず… 無事、出国のスタンプが押された。
免税店には色々な工芸品が売っているので、もう充分買ったにもかかわらず、つい買いたくなる。
イラン航空は、結局、帰りの便も18時55分の出発が2時間遅れた。しかし、行きの8時間遅れに比べればどうということはない。
フライトは、例によって、終始、極めてスムーズだった。それどころか、機内のモニターを見ていて気付いたのだが、飛行機のスピードはほぼずっと時速1,000キロを超え、少々、飛ばし気味に思われた。そして、出発時の遅れ2時間を、成田到着時には、見事、30分にまで縮めたのだった。
色々あったが、次にイランへ行く時も、またイラン航空を利用したいと思った。少しでも長く、イランの雰囲気に浸っていたいから。

《 イラン2007 完 》