旅の空

イランの旅 2007

12

ラームサル

ラームサル  Ramsar

せっかく、カスピ海有数のリゾート地に来たというのに、朝から曇り空だ。カスピ海地方に来てからというもの、初日を除いてすっきりと晴れた日がない。
ラームサルでは、かつて、水鳥の生息地として重要な湿地などを保護するための国際会議が開かれ、会議の結果、結ばれた条約には開催地の名前がつけられた。有名な「ラムサール条約」である。一般には「ラムサール」で通っているが、「ラームサル」が原語での正しい呼び方だ。
アーザーディー・ラームサル・グランド・ホテルの旧館は由緒正しきホテルだそうで、新館よりも宿泊料が高い。泊ったのは新館である。
ホテルの裏庭を歩いてみる。周囲には、鬱蒼と生い茂る緑。この風景、どこかで見たような…。そう、まるで伊豆だ。
湿度が高いので、散歩しているだけで汗が噴き出してくる。
アーザーディー・ラームサル・グランド・ホテルAzadi Ramsar Grand Hotelラームサル

宮殿博物館  Muze-ye Kakh

イスラム革命前の国王、シャー・レザー・パフレヴィーが見晴らしの良い高台に建てた宮殿は、現在、博物館になっている。
ラームサル:宮殿博物館Muze-ye Kakh, Ramsarラームサル:宮殿博物館
縞模様の大理石をふんだんに用いた外壁といい、隅々まで見事な彫刻を施した柱といい、金に糸目をつけなかったことがよくわかる。内部も同様で、どの部屋もヨーロッパから取り寄せた高級家具調度品がこれでもかというくらいに置いてあった。ただ、どの部屋も、絨毯は必ずイラン製で、しかも最高級品の特注・特大サイズだったのが印象的だ。
Muze-ye Kakh, Ramsarラームサル:宮殿博物館Muze-ye Kakh, Ramsar
宮殿の正面には、丸い池があって、観光客がみな水中をのぞきこんでいる。見ると、チョウザメが泳いでいた。それを見て思い出したが、キャビアはチョウザメの卵、カスピ海はチョウザメの生息地なのだ。池の底には、観光客がチョウザメをからかって投げ入れた小石がたくさん沈んでいる。
南国を思わせる珍しい庭の植物、木が鬱蒼と生い茂る山々、響き渡る蝉の合唱。忘れかけていた強烈な夏の季節感がふと呼び起こされる。カスピ海地方に来てからずっと感じていた疑似日本感は頂点に達した。
ラームサル:宮殿博物館の庭Muze-ye Kakh, Ramsarラームサル:宮殿博物館の庭の池にいるものは?

初物

宮殿博物館を出たところの露店で、びっくりするものを売っていた。
なんと、ミカンである。まさか、イランでお目にかかれるとは。聞けば、ラームサルではミカンを栽培しているのだとか。たしかに、よく見ると、近くの畑にはミカンの木がある。
ともあれ、これはなんともうれしい驚き。早速、一袋買いこんで食べた。甘さはそれほどでもなく、香りも野性味が強いが、確かに日本で食べるミカンの味がする。イランで食べることになるとは思わなかったが、今年の初物としては上出来だった。
Ramsarラームサルのミカンラームサル:ミカンの木

カスピ海の休日  The Caspian Holiday

海岸へ行く途中のレストランで食べたホレシュテ・ゴルメサブズィーが忘れられない。豆や野菜、肉が入った緑のシチューのようなもので、カスピ海地方の美味しいご飯にかけて食べる。今回の旅で一番の料理だった。
昼食後は海へ。カスピ海での海水浴は、今回の旅のお楽しみの一つ。しかし、朝の時点ではいずれ晴れ間がのぞくかと思われた空は、かえって雲が厚くなっていた。
カスピ海:ラームサルCaspian Sea, RamsarDarya-ye Khazar, Ramsar
海の色も砂浜の色も、日本のどこにでもある海岸のようだった。曇っているので、正直なところ、海に入りたいほどの暑さではなかったけれど、せっかく、夏のカスピ海に来ているのだ。泳がない手はない。
水にずっと入っていると少々寒いので、たまに上がってきては、乾いた砂の上に寝ころんで体を温める。カスピ海の水は、海水ほどではないが、少し塩気があった。
カスピ海:ラームサルCaspian Sea, RamsarDarya-ye Khazar, Ramsar
イランでは海水浴場も男女別で、この海岸も例外ではない。男性区域、女性区域それぞれに幕で目張りをしている。女性側は特に厳重だ。この中では女性は被りものをせず、水着だけでいられるのだという。男性は当然、女性区域に入ることなどできないが、男性側ビーチには女性の姿がちらほらと見受けられる。なんでも、陸の格好さえしていれば女性は男性側に入って来られるとのことで、何やら不公平感が漂う。
カスピ海の海の家:ラームサルDarya-ye Khazar, Ramsarカスピ海の海の家:ラームサル
予定では、夕方まで、浜辺でのんびりとカスピ海の休日と洒落込むつもりだった。
しかし、雨が降るほどではないにしても、厚い雲がとれる気配はない。肌寒さに負けて、海水浴は早々にお開きとなった。
海の家で、未練がましくチャイをすする。海にせり出して建つ、文字通りの海の家だ。
曇り空では、空の色も海の色もどんよりとしてぱっとしない。

ラームサル温泉

アーザーディー・ラームサル・グランド・ホテルの近くにある温泉に行ってみた。サルエインのようなところかと思ったら、見かけは日本の日帰り温泉のようだった。湯も白濁していて、硫黄の匂いがする。しかし、残念ながら、湯が熱すぎて長く浸かっていられなかった。

遊園地にて

時間を持て余す。夕食まで時間がありすぎるので、遊園地に行ってみることにした。リゾート地という割には人が少ないと思っていたが、ここには大勢いた。
ラームサルRamsarラームサルの遊園地
暇にまかせ、観覧車に乗ってみる。地元の若者2人と同乗することになった。ゴンドラに乗り込む際も、乗っている間も、彼らは、身振り手振りも交え、ペルシア語とたどたどしい英語でさかんに話しかけてくれたりと気を遣ってくれた。2人ともいいやつで楽しい時間を過ごした。
ラームサル:海辺でたたずむ人々遊園地の観覧車:ラームサル観覧車に乗って眺めた夕暮れのカスピ海
イランでは、レストランが開くのも日本より遅くて、夜の7時半ではまだ開店前というところが多い。町歩きをしようにも、今日はあいにく金曜日で、ほとんどの店が休みだった。夕食後は、ホテルへ真っすぐ帰るしかなかった。
旅もとうとう終りにさしかかった。