イランの旅 2013
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ダーラーブゲルド その2
ダーラーブゲルド :地点3(散乱遺物) Darabgerd
ダーラーブゲルドに足を踏み入れてまず目にするものは、見渡す限り一面に散乱する石材や陶器のかけらだ。
その夥しさに唖然とさせられる。
この手の陶片は無尽蔵とも思えるくらい至る所に転がっているが、これらが古代のものか、あるいは中世のものなのか、残念ながら僕には判別できない。
どの時代のものかわからなくても、地面に落ちているこうした破片を見て回るだけで僕は充分楽しめる。
沖縄や奄美の海岸でサンゴのかけらを拾い集めるような気分だ。
長い年月の中で、目ぼしいものはみな持ち去られてしまったと考えるべきだろう。それでも、この中を一日中歩き回れば、何か重要な考古遺物を発見できるのではないかという気にさせる。
無論、こうした遺物の持ち出しはイランでも御法度である。空港の手荷物検査も厳重だ。自分にそう言い聞かせて、持ち帰りたい気持ちをぐっとこらえる。
ダーラーブゲルド :地点4(謎の遺構) Darabgerd
山裾の正面からやや右の地点に、不自然な地面の盛り上がりがあることに気付いた。
それは、相撲の土俵をさらに盛土で囲んだような構造物である。ちょうど、漢字の「回」という字の形だと思っていただければよい。ただし、部首の「くにがまえ」にあたる部分(外側の「口」)は一ヶ所切れている。
長さは10~15m、高さは80cm~1mほどか。
遠目には単なる盛り土のようだったが、周囲には石材が散乱しており、モルタルが使われたと思しき形跡もある。
元の姿形は想像できないが、ダーラーブゲルドにはこうした遺構が無数に存在する。地面の下にはたしかに古の都が眠っているようだ。
ダーラーブゲルド :地点5(奇岩風景) Darabgerd
地点4の遺構から山を挟んで反対側に、岩が林立する不思議な光景が広がっている。
さすがにこれは人工物ではあるまい。しかし、この場所にだけ岩がこれほど密集するのは異様としかいいようがない。自然は、こんな奇妙な景観をも造り出すものか。
近づいて思わず声を上げた。自然の風景と見えた岩には、明らかに人の手によって開けられた四角い穴があるではないか。さらに、その右横に見えるテラス状の平坦部はおそらく岩を垂直に切り出したものだ。
一体、この場所で何をしていたというのか。
ダーラーブゲルド :地点6(縦穴) Darabgerd
地点4の近くで、地面が白っぽくなっている場所が目についた。土の色がそこだけ違っていて、明らかに不自然なのだ。
近づいて見ると、そこには深さ2~3mほどの穴がいくつかある。白っぽい土は、何かの建材が分解して粉々になったものであるように見受けられた。
この穴は、古代の遺構か、あるいは盗掘穴か。とにかく、自然に開いた穴ではなさそうだ。
様々な遺物や遺構を見ていくうちに、失われた都市の幻影か霊気のようなものが、地中からゆらゆらと立ち上っているような気がしてきた。
それは、アルダシール・ファッラフでは感じることのなかった生々しさだ。
ダーラーブゲルド :地点7(奇石) Darabgerd
地点6のほど近くに、石碑のような奇妙な形をした岩がある。少し前から見えていてずっと気になっていたのだ。
自然の岩がこのような状態で立っているものだろうか。周りの岩の配置まで何か意味ありげに見えてくる。
岩の正面には窪みが2つある。窪みが2つ並んでいるせいで、つい人の顔のように見えてしまうところが不気味だ。岩の足元には小石がたくさん積もっている。
これが自然のものでないとすれば、作られた年代や使用目的などはさっぱり見当がつかない。だいたい、ダーラーブゲルド自体がわけのわからないものだらけだ。そこがまた好奇心をかきたてられる点でもあるが。
地点5の林立する岩もそうだが、元々あった自然を生かした造形がダーラーブゲルドの際立った個性といえるかもしれない。
放牧風景
どこから入ってきたのか、放牧の羊の群れが通りかかった。
羊の群れに食べさせるほどの草なんかここにないだろうに。そう思ったところでふと気づいた。
そういえば…
ダーラーブゲルドはなぜ、完璧な廃墟の状態を今日まで保つことができたのだろうか。
内部のほとんどを畑にされてしまったアルダシール・ファッラフとの違いはどこにあったのだろう。
この広漠たる空間もかつては都市だったことを、今はただ城壁だけが物語る。