イランの旅 2013
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ダーラーブゲルド その3
ダーラーブゲルド :地点8・9(山裾) Darabgerd
中央にそびえる山の西側に回り込む。見る位置によって、山の表情がまるで違って見えるのが不思議だ。
あの山には是非とも登ってみるつもりだった。
ここに来て、地面に散乱する遺物の密度が一層高くなった。この辺りには何か重要な建造物があったのかもしれない。
山腹には無数の穴が開いている。最初は自然にできた穴かと思ったが、ダーラーブゲルドの中央の丘にはダフマ(遺体を鳥葬に付した後に残った骨を納める墓穴)が彫り込まれている
と青木健氏の著作に書いてあったのを後から思い出した。
となると、あの無数に開いた穴がまさにそれだろう。そしてさらに、あることを思いついた。
地点5で見た、岩に開いた四角い穴もダフマではなかっただろうか。
山の斜面を登るにつれ、次第に展望が開けてゆく。
ダーラーブゲルドの山登りは、チェル・ベルケほど危険ではないが、ここも整備された道があるわけではなく、遠くから見て想像していたよりも傾斜が急だった。しかも、小石で覆われた斜面は足元が不安定で、バランスを崩したら麓まで一気に滑り落ちて行きそうな気がする。傾斜の緩いルートを慎重に選びながら頂上を目指す。
ダーラーブゲルド :地点10(山頂) Darabgerd
少々神経を使う山登りだったが、無事、頂上にたどり着いた。
「上には何もないよ」と、ハメドさんはたぶん当てずっぽうで言っていたが、僕は、必ず何かあるはずだと思っていた。
行ってみれば案の定、山頂付近にモルタルを使った石積みの遺構がある。
そしてさらに、巨大な岩を切り通した門のようなものが現れて仰天した。山頂に何らかの施設があったのは間違いあるまい。
山頂は思ったより広くて平坦だった。目立った建造物はなかったと思うが、地面が陥没したような穴がいくつか開いている。穴から石積みの残骸らしきものが露出しており、地中に何か埋まっているかもしれない。 航空写真を見ても、大がかりな遺構が山頂にありそうだ。
ダーラーブゲルド :地点10(山頂展望) Darabgerd
山頂では360度の素晴らしい眺めを堪能できる。よく見ると、小さい方の山にもダフマと思しき穴が所々にある。
草が生えているところはかつてため池だったという。
無数の遺構は、明らかに色の違う盛り上がりとなって地面にはっきりと表れている。これほど多かったかと改めて驚かされる。地上を歩いているときには案外、気付かないものである。
ダーラーブゲルド :山頂にて Darabgerd
せいぜい数十メートルという高さにもかかわらず、ダーラーブゲルドの山頂からは意外なほど遠くまでが見渡せた。たしかに、城砦を築くとすればここは最適な場所だ。
そう考えながらも、同時に、僕の脳裏には全く違うある光景が浮かんでいた。
それは、ヤズドのダフメ(沈黙の塔)である。周囲の荒涼とした眺め、山の高さや姿形、大小二つの山が並ぶ点までもがヤズドの風景を思い起こさせる。
それだけではない。この山の斜面には無数のダフマ(納骨穴)がある。納骨穴があるからには、遺体を鳥葬に付す場所が近くにあったはずだ。それがこの山頂ではなかっただろうか。この山は、沈黙の塔を造る場所にも適している。
しかし、そうだとしたら、曝葬という特殊な葬法を行う場所が都市の真ん中に存在するといったことがありうるだろうか。
ゾロアスター教においてもダフメは穢れの場であったはずだ。だからこそ、ヤズドの場合がそうであるように、人里離れた場所に造り、特別な資格を持つ祭司以外は中へ入ることを許さなかった。そのような場が同じ都市の中で居住空間と併存しうるだろうか。
ひょっとしたら、ダーラーブゲルドはネクロポリスだったのだろうか。あるいは、タフテ・ソレイマーンのような宗教都市か。ふと、そういう考えが頭に浮かんだ。
ダーラーブゲルド :地点9 Darabgerd
登ってきたのと同じルートを探しながら斜面を下る。チェル・ベルケのときとは比べられないものの、やはり少々冷や汗をかく山下りだった。
あの山が、登る前とは少し違って見える気がした。